身の回りにEBPMという言葉をよく聞くようになったけど、なんだ、それ!?
仕事上、EBPMをやらなくちゃならなくなった!で、どうすれば!?
EBPMのポイント その① 「質の高いエビデンス」
今日、取り上げられているエビデンスに基づく政策(EBPM)は、データと研究,評価がそれぞれ混在して用いられているものがあります。
EBPMで用いるエビデンスとは、質の高いものです。
分かりやすくまとめた以下の図(田辺2008)があります。
エビデンスとは,「○○が△△に対して,正ないし負の影響を及ぼすという命題があるとき,実証的検討を経た,その命題についての正否の言明」です。(津富2008)
本来のEBPMとは、下図の狭義のエビデンス、つまり、質の高いエビデンスを参考にして政策の意思決定を行うことといえます。
出典
田辺智子、2018、「エビデンスに基づく政策立案―その系譜と本質―」日本評価学会第19回全国大会発表資料, 横浜.
津豊宏、2008、「少年非行対策におけるエビデンスの活用」小林寿一編著『少年非行の行動科学』北大路書房、pp.226-238
なお、質の高いエビデンスにシスティマテックレビューというものがあります。
「システマティックレビュー」とは、たくさんの研究を一定の基準に基づいて、まとめたものです。
日本語での簡単な解説資料はこちら⇩
その他、システィマテックレビューに関する書籍は以下のようなものがあります。
<日本語>
○書籍
・「エビデンスに基づく看護実践のためのシステマティックレビュー 牧本清子編集」
・「システマティック・レビュー―エビデンスをまとめてつたえる イアイン チャーマー
ズ (著),ダグラス・G. アルトマン (著), Ian Chalmers (原著)」
○ウェブサイト
・静岡県立大学津富宏先生HP(キャンベル共同計画の翻訳)
http://ir.u-shizuoka-ken.ac.jp/campbell/library.htm
<英語>
○書籍
・「An Introduction to Systematic Reviews David Gough 」
現在、このサイトに限り、特別に、第一章を無償提供して頂いています!
○ウェブサイト
・David Gough先生講演動画(英語)
こういった「質の高いエビデンス」を
入手・参考にすることができるかが、EBPMのコツの一つです。
EBPMのポイント その② 「仕組み」
実務者(行政や実践の場で政策決定に携わる人)は、まず、EBPMの「仕組み」を考えてみましょう。
どのような仕組みがあれば、EBPMがよりよく推進されるのでしょうか。
イギリスでEBPMをリードするEPPIセンターの調査チームは、2016年に、EBPMをよりよく進める「仕組み」について、調査研究を行い、右の3つの要因にまとめました。
この3つを「仕組み」として備えることがEBPMのコツといえます。
それは・・・能力(Capability)・意欲(Motivation)・機会(Opportunity)です。
○能力
エビデンスに関する知識全般を指します。エビデンスがいくらあっても、一体それがなんなのか、エビデンスそのものが疑わしくないのか、相関関係なのか因果関係なのか等、統計的な知識に加え、エビデンスを関係者に伝達する力、エビデンスを用いる場の実態把握、エビデンス活用の倫理など、エビデンス全般に関する能力(エビデンスリテラシー)がEBPMには欠かすことができません。
大事なのは、エビデンスに関する知識・能力を有する人材の育成です。このような能力を有する人材を育成するため、ワークショップを開催したり、育成のためのカリキュラムを作成したりするなどの工夫が必要になります。
EBE研究会では、こういった能力を育成するためのワークショップを開いています。詳しくは、研究大会のご案内まで。
○意欲
EBPMに取り組む意欲や理由がなければいくらエビデンスがあってもEBPMは推進されません。政策の推進ができない、予算がつかない、説明責任を果たさなければならない等の外発的な意欲もこの点に含まれます。この意欲について、EBPMを推進している諸外国の政府及び地方行政は、EBPM促進のための法律を定めたり、EBPMを促すイニシアティブを設定したりするなど、意図的にEBPMに取り組む意欲を高めています。
○機会
エビデンスを入手できる環境がないとEBPMの推進は難しいです。EBPMをリードするアメリカ、イギリスでは、エビデンス専門機関を設立し、EBPMを推進する実務者がエビデンスを気軽に入手することのできるよう、専用のウェブサイトを運営しています。特定の組織や団体、指導方法に偏ることなく、中立的なエビデンスの提供を行っています。
こういった「仕組み」を
その組織の中でつくることができるかが、EBPMのコツの一つです。
EBPMのポイント その③ 「エビデンス仲介機関」
EBPMを推進するうえで、「エビデンス仲介機関」は重要な役割を担っています。EBPMをリードする各国は、それぞれの社会背景を経て、エビデンス専門機関を設立させてきました。
「Lessons from abrod-international approaches to promoting evidence based social policy-」では、ドイツ・オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ・オランダ・ベルギーのエビデンス専門機関を紹介しつつ、各国のエビデンス専門機関について調査しました。
その中で、各国のエビデンス専門機関を、その役割ごとに、大きく6つに分類しました。
「ネットワーク型、研究機関型、企業型、基金型、政府型、混合型」(右図)
EBPMを推進するうえで、このような専門機関を、どこの組織がどのように、その役割を担うのか、資金調達や、関係機関との連携のあり方も含めて、EBPM促進者は考えなければなりません。
なお、もっとも懸念されることが組織の「独立性」です。
エビデンスというものの性質上、その機関が、どのように「独立性」を保つのか、もしくは保っているのかを見極める必要があります。
ネットワーク型 |
・国際・国レベルでの組織 ・主に大学学部内に位置づくネットワークとしての組織 ・資金調達は、政府補助金、財団、慈善団体からの寄付など |
研究機関型 |
・大学の独立部門やシンクタンクなどの組織 ・資金調達は、多様 |
法人型 |
・政策や個々の介入を評価するため、政府を主たる対象とした組織 ・オリジナルに設立された組織 ・資金調達は通常、契約形態 |
基金型 |
・稀少な独立性を有する財団組織 |
政府型 |
・役立つエビデンスや評価を提供することを目的にした国際研究組織 ・国際的な政府機関 |
混合型 |
・公的/私的な提携、自発的な組織 |
こういった「エビデンス仲介機関」として
どこがどのように活動するのかが、EBPMのコツの一つです。
エビデンス仲介機関として、イギリス・アメリカの先行する機関が参考になります。
どういったことをしているのか・・・
詳しくは以下の論文があります。
森俊郎・岡崎善弘 「教育分野におけるエビデンス仲介機関の特徴」日本評価研究pp77-88
アメリカ・イギリスのエビデンス仲介機関についてその特徴をまとめています。
エビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)について、参考になる書籍を紹介します。
残念ながら、日本では、EBPMに関する資料は多くありません。しかし、英語圏内にはEBPMに関する文献が多数あります。
その中でも特に以下の2つの書籍を紹介します。
1つ目は、「Introduction to Systematic Reviews」です。タイトル通り、システマティックレビューに関する知見が余すところなく、書かれています。最近、2nd Editionが出され、最後の章には、エビデンスの活用に関する最新の研究知見が掲載されています。イギリスのEPPIセンターのメンバーの総力をあげて執筆した書籍です。
システマティックレビューについて、さらに知りたい方は、本HPの「システマティックレビューについて」をご覧ください。
2つ目は、「Evidence-based policy making in the social sciences」です。イギリスやオーストラリアの関係者が中心となってまとめた書籍です。タイトル通り、社会科学分野におけるエビデンスに基づく政策について、多数の事例を挙げて、EBPMについて言及しています。
EBPMの何が難点なのか等、先行する国々の知見がまとめられています。
今後の日本のEBPMの発展に大変参考になります。